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C)、そして脚筋力の増加と膝関節角度の変化との関係は有意な相関が認められた(同d)。すなわち、トレーニングでの膝伸展筋力の増加によって、歩行の脚接地時と踏み出し時の膝関節がより伸展するという結果が認められた。また、両大腿の股関節角度は、膝角度とは逆に、トレーニング後には有意に減少した(同C)。つまり、トレーニングで膝伸展筋力が増すことによって、股関節はあまり開かず、膝を伸展させる歩行動作に変わる。その結果、有意ではないが、大転子の高さが若干上昇するという傾向がみられた(同f)。
山本ら(1995)の中高年者の横断的な歩行解析によれば、踵接地時とつま先離地時の下肢3関節(股・膝・足関節)の角度について、踵接地時の下肢3関節の角度は加齢による変化がほとんどみられなかったが、つま先離地時の下肢3関節の関節角度は加齢に伴い、すべて有意に減少していたと報告されている。すなわち、加齢に伴い、地面を蹴る動作が低下し、その結果として下肢3関節が伸展しなくなると考えられる。山本らは、中高年者の歩行解析の結論として、「加齢に伴う蹴り出し動作の衰え」が強く示唆された、と述べている。
歩行を可能にするためには、当然体重を支え、地面を蹴る脚の筋力が必要である。歩行に十分な筋力発揮のためには、その出力に応じた筋の太さ:筋量が必要となる。逆に、この筋量が滅少したときに、歩行動作が変化し、身体の移動量が低下すると考えられる。これと、山本ら(1995)の指摘、そして本実験結果を合わせて考えれば、「下肢のレジスタンストレーニングで筋力が増大すれば、膝がしっかり伸びる歩行動作が可能になる」という因果関係が示唆されるのである。
一方、膝屈筋力については、トレーニング効果もみられず、動作との相関も明確な結果がみられなかった。

要約

中高年者9名を対象に、体幹と下肢のレジスタンストレーニングを行った場合の筋力増加と歩行動作の変化の対応を検討した。レジスタンストレーニングによって、膝仲展筋力が有意に増大した。しかし、中高年者の歩行において、脚伸展筋力が増大したからといって自由歩行におけるストライドが伸び、ピッチが速まるということはなかった。ただし、歩行動作それ自体をみると、トレーニングで膝伸展筋力が増すことによって、歩行の両足接地期における股関節はあまり開かずに、脚接地時と踏み出し時の膝関節がより伸展するという変化が認められた。したがって、「脚のレジスタンストレーニングで筋力が増大すれば、膝がしっかり伸びる歩行動作となる可能性」が本研究により示唆された。

文献

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